更新日 : 2023.05.15
セーフティネット貸付
日本政策金融公庫のセーフティネット貸付とは、売上の減少や取引のある銀行・会社の影響によって、一時的に資金繰りが難しい事業者の支援を目的にした公的制度です。
セーフティネット貸付を利用すれば、中長期的に経営状態を安定させるための運転資金や設備資金を借入できます。ただし、資金の貸付を受けるには、面談や企業訪問などを含む審査に通る必要があります。
そこで、セーフティネット貸付の概要や利用対象を説明したうえで、個人事業主・小規模事業者・中小企業ごとの必要書類や申し込みの流れについて解説していきます。
日本政策金融公庫セーフティネット貸付の借入方法
日本政策金融公庫のセーフティネット貸付とは、公的機関である日本政策金融公庫が行なっている事業者向けの貸付制度です。売上の減少や取引のある銀行・会社の影響によって、一時的に資金繰りが難しい事業者の支援を目的としています。
セーフティネット貸付の種類は3種類あり、それぞれ「個人事業主・小規模事業者」であるか「中小企業」であるかによって、利用限度額や必要書類、申し込みの流れなど借入方法が異なります。
セーフティネット貸付は、経営状況が悪化した要因によって、利用できる資金が異なります。各資金では利用対象が細かく定められており、いずれかの条件に当てはまらなければ利用できないので注意しましょう。
セーフティネット保証制度とのちがい
セーフティネット貸付について調べるなかで「セーフティネット保証制度」という制度を目にした人もいるかもしれません。
セーフティネット保証制度は、小規模事業者や中小企業が資金繰りを円滑に行なうことを目的とする信用保証協会が、民間の企業などからの貸付を受けやすくするために事業者を保証する制度のことです。
セーフティネット貸付とセーフティネット保証制度は、ともに中小企業などの事業者を支援するための制度ではありますが、別の機関が実施する異なる制度です。
手続きの方法や必要書類なども異なるため、「セーフティネット貸付を利用したいのにセーフティネット保証制度の情報を参考にしていた」といったことのないよう気をつけましょう。
セーフティネット貸付の利用対象
セーフティネット貸付では、3つの資金が用意されており、それぞれ利用対象が異なります。そのため、セーフティネット貸付を利用したい場合は、自身の状況と照らし合わせて利用可能な資金を申し込むようにしましょう。
そのため、まずは大まかな利用対象を確認したうえで、それぞれの資金の利用対象についての詳細を確認してください。
セーフティネット貸付では、経営が困難となった理由によって利用対象を分けています。資金の種類と大まかな利用対象は下記の通りです。
資金の種類 | 利用対象 |
---|---|
経営環境変化対応資金 | 売上が減少するなど業況が悪化している方 |
金融環境変化対応資金 | 取引金融機関の経営破たんなどにより、資金繰りに困っている方 |
取引企業倒産対応資金 | 取引企業などの倒産により経営が困難になっている方 |
※リンクから各資金の詳細を説明する見出しに移動できます
それぞれの資金では、さらに具体的な利用対象が設定されているため、自身が利用対象として当てはまると考えられる資金の詳細を確認しておきましょう。
経営環境変化対応資金
経営環境変化対応資金は、社会的・経済的な環境の変化によって一時的に売上が減少している事業者の経営状況の回復や発展を目的とする資金です。社会的・経済的な環境の変化とは、物価の変動や、コスト・原材料の高騰などが例として挙げられます。
経営環境変化対応資金の利用対象は、「社会的、経済的環境の変化等外的要因により一時的に売上の減少等業況悪化をきたしているが、中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれ、下記の1〜8のいずれかに該当する人」です。
1、最近の決算期における売上高が前期または前々期に比べて5%減少している方 |
2、最近3ヶ月の売上高が前年同期または前々年同期に比べて5%以上減少しているかつ今後も売上減少が見込まれる方 |
3、最近の決算期における純利益額または売上高経常利益率が前期または前々期に比べて悪化している方 |
4、最近の取引条件が回収条件の長期化または支払条件の短縮化等により、0.1ヵ月以上悪化している方 |
5、社会的な要因による一時的な業況悪化により資金繰りに著しい支障を来している方または来すおそれのある方 |
6、最近の決算期において、赤字幅が縮小したものの税引前損益または経常損益で損失を生じている方 |
7、前期の決算期において、税引前損益または経常損益で損失を生じており、最近の決算期において、利益が増加したものの利益準備金及び任意積立金等の合計額を上回る繰越欠損金を有している方 |
8、前期の決算期において、税引前損益または経常損益で損失を生じており、最近の決算期において、利益が増加したものの債務償還年数が15年以上である方 |
参照元:日本政策金融公庫「経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫」
上記の利用対象のいずれかに当てはまっていれば、セーフティネット貸付の経営環境変化対応資金に申し込めます。
なお、売上の減少などの要因は、「社会的・経済的環境の変化などの外的要因」でなければならず、それ以外の要因による売上の減少などの場合は利用対象に当てはまらないので注意しましょう。
金融環境変化対応資金
金融環境変化対応資金は、銀行などとの取引状況の変化によって、一時的に資金繰りが困難となっている事業者の経営の安定を目的とする資金になります。
金融環境変化対応資金の利用対象は、「金融機関との取引状況の変化により、一時的に資金繰りに困難をきたし、中長期的には資金繰りが改善し経営が安定することが見込まれる方であって、下記の1〜8のいずれかに該当する方」です。
1、取引する銀行などが行政庁から業務停止命令(一部業務停止命令を含む。)を受けた方 |
2、取引する銀行などが実質的に経営破綻の状態等にある方 |
3、預金保険法等の規定に基づき、取引する銀行などからの借入等が株式会社整理回収機構に譲渡された方などで、経常利益を計上しているなど、業況が順調であると認められる方 |
4、経営状況が悪化していないにもかかわらず、銀行などからの借入金利が長期プライムレートの変動に比べ相対的に上昇するなどの状況にある方 |
5、国際的な金融不安や経済環境の変化を背景に、取引する銀行などから次の(1)から(5)までのいずれかの要請または取扱いを受けている方 |
(1)借入残高の減少 |
(2)約定した返済条件を超える弁済 |
(3)当座預金の解約 |
(4)担保・保証人の追加 |
(5)借入金利の引上げ |
参照元:日本政策金融公庫「金融環境変化対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫」
上記の利用対象のいずれかに当てはまっていれば、セーフティネット貸付の金融環境変化対応資金に申し込めます。
取引企業倒産対応資金
取引企業倒産対応資金とは、取引する企業など事業に関連する企業の倒産によって、経営が困難となっている事業者を支援することを目的とした資金になります。
取引企業倒産対応資金の利用対象となるのは、「取引企業など関連企業の倒産により経営に困難を来している方で、次の1〜6のいずれかに該当する方」です。
倒産した企業に対して50万円以上の売掛金債権などを有する方 |
倒産した企業に対する取引依存度が20%以上である方 |
倒産した企業に対して貸付金や差入保証金などの債権を有する方 |
倒産した企業の債務を保証している方 |
倒産した企業の設置する商業施設に入居している方であって、倒産の影響を受けている方または影響を受けるおそれのある方 |
倒産した企業から受注した商品や役務などが、倒産の影響により取り消された方 |
参照元:日本政策金融公庫「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫」
上記の利用対象のいずれかに当てはまっていれば、セーフティネット貸付の取引企業倒産対応資金に申し込めます。
なお、中小企業の人が申し込む場合、利用対象にある「倒産した企業」とは、事業の経営上なんらかの行き詰まり状態に陥っているかつ下記のいずれかに該当する企業である必要があります。
- 手形交換所より取引停止処分を受けた企業
- 会社整理開始後、民事再生手続開始または会社更生手続開始の申立てがあった企業
- 特別精算開始または破産手続開始の申立てがあった企業
- 債権者会議を開催して内整理に入ったものまたは経営者の行方不明などにより事実上事業の継続が困難となった企業
※倒産した企業は原則として借入申込み受付前1年以内に倒産したものに限る
参照元:日本政策金融公庫「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)|日本政策金融公庫」
中小企業の人が申し込む場合は、「倒産した会社」が上記の条件に当てはまっているか確認する必要があります。一方、個人事業主・小規模事業者の場合、倒産した会社についてはとくに規定されていません。
セーフティネット貸付を利用するには審査に通る必要がある
セーフティネット貸付を利用するには、日本政策金融公庫の担当者との面談や企業訪問などを含む審査に通る必要があります。
日本政策金融公庫では、審査基準を公表していませんが、審査内容については下記のように公表しています。
Q15 融資にあたっての審査は、どのようなものですか。
A15 これまでの業績、これからの事業見通し、業界の動向、申込計画などから総合的にご融資の可否を判断させていただいております。
引用元:日本政策金融公庫「よくあるご質問 事業を営む方 中小企業の方|日本政策金融公庫」
また、個人事業主や小規模事業者の人は、審査の際に信用情報を確認される可能性があると借入申込書に記載されています。
信用情報の照会は、融資金を完済できるかどうかを判断するために行なわれます。信用情報を確認したうえで「完済できる見込みがない」と判断されれば、審査に影響を及ぼす可能性もあると覚えておきましょう。
セーフティネット貸付の手続きの流れ
セーフティネット貸付で貸付を受ける場合の手続きの流れは、申込者が「個人事業主・小規模事業者」であるか「中小企業」であるかによって異なります。
申込者 | 手続きの流れ |
---|---|
個人事業主・小規模事業者 |
|
中小企業 |
|
※リンクから申込者ごとの申込の流れを説明する見出しに移動できます
申込者によって、必要書類もそれぞれ異なるため、申し込みから貸付までの流れを確認しつつ、必要書類についても目を通しておきましょう。
個人事業主・小規模事業者が貸付を受けるときの流れ
個人事業主・小規模事業者がセーフティネット貸付で貸付を受けるときの手続きの流れは下記の通りです。
参照元:日本政策金融公庫「個人企業・小規模企業の方|日本政策金融公庫」
申し込みはインターネットまたは郵送で行なえます。最寄りの支店にて来店での申し込みも可能です。支店に直接出向く場合は、国民生活事業の「支店業務区域一覧」で自身の地域を管轄する支店を確認後、電話などで来店予約しておくとよいでしょう。
インターネット申込は、「事業資金 お申込受付」より行ないます。郵送の場合は「各種書式ダウンロード」で借入申込書等をダウンロードして、必要事項を記入してから送付しましょう。
また、どの方法でも必要書類は申込時に提出する必要があります。郵送や来店の場合は申し込みと同時に郵送・来店での提出をして、インターネットの場合は電子データに変換したうえで申込後にアップロードして提出できるよう準備しておいてください。
必要書類を提出したあとは、面談による審査が行なわれます。審査に通過した人は、契約手続をしたあとに資金を借入できるながれです。
必要書類
個人事業主・小規模事業者が提出する必要のある書類として、下記のような書類が挙げられます。提出する必要があるのは、自身の条件にあてはまる書類すべてです。
※「はじめて利用する方」の書類のうち、創業計画書を提出する場合、企業概要所の提出は不要になります
参照元:日本政策金融公庫「個人企業・小規模企業の方|日本政策金融公庫」
必要書類は申込者の状況によって異なるため、自身が提出する必要のある書類を確認し、漏れなく用意しましょう。
なお、これらの必要書類以外にも、申込内容によっては担当者から別の書類の提出を求められる可能性があります。そのため、申込後に担当者から連絡があった際は、追加提出する書類の有無なども確認しておくとよいでしょう。
中小企業が貸付を受けるときの流れ
中小企業がセーフティネット貸付で貸付を受けるときの手続きの流れは下記の通りです。
参照元:日本政策金融公庫「中小企業の方|日本政策金融公庫」
中小企業の人がセーフティネット貸付に申し込む場合、まず日本政策金融公庫支店の中小企業事業の窓口に直接相談に出向く必要があります。最寄りの窓口は中小企業事業の「支店業務区域一覧」から自身の地域を管轄する支店を確認後、電話などで来店予約しておくとよいでしょう。
窓口で相談する際は、「会社案内」「決算書」「事業計画書」のような書類を持参することで具体的な相談に対応してもらえます。
窓口での相談後は、案内された必要書類を提出し、審査が行なわれます。審査に通れば、担当者と契約に関する打ち合わせを行なって資金が入金されるながれです。
必要書類
日本政策金融公庫に中小企業が提出する必要のある書類としては、下記のような書類が挙げられます。
- 会社案内、製品カタログなどの参考資料
- 法人の登記事項証明書
- 最新3期分の決算書・税務申告書
- 納税証明書
- 最近の試算表(決算月から時間が経っているかた)
- 設備投資を行なうときは、概要のわかる資料
- 担保の内容がわかる資料(登記事項証明書など)
参照元:日本政策金融公庫「中小企業の方|日本政策金融公庫」
上記の書類以外にも、必要に応じて、補足資料の提出を求められる場合があります。
必要書類は貸付を検討するための資料となるため、担当者から案内された必要書類はもれなく用意するようにしましょう。
セーフティネット貸付の返済は毎月の分割返済で行なう
セーフティネット貸付の返済は、申込者が指定した口座からの口座振替で、毎月の分割返済で行ないます。
また、資金種類ごとに決められた期間内であれば、返済期間は自由に設定できます。
セーフティネット貸付の種類 | 返済期間(うち据置期間) |
---|---|
経営環境変化対応資金 |
設備資金:15年以内(3年以内) 運転資金:8年以内(3年以内) |
金融環境変化対応資金 |
設備資金:15年以内(3年以内) 運転資金:8年以内(3年以内) |
取引企業倒産対応資金 | 運転資金:8年以内(3年以内) |
セーフティネット貸付の返済期間には、据置期間が設定されています。据置期間とは、元金を据え置いたまま、毎月の返済を利息のみにできる期間のことです。
資金を借り入れたあと、すぐに経営状況が好転せず、毎月の返済をするのが難しい場合などは、据置期間を利用することで毎月の返済負担を軽減できます。
また、毎月の返済を行なうにあたって、「毎月の返済額がどの程度になるのか確認しておきたい」という人もいるかもしれません。毎月の返済額を把握するには、日本政策金融公庫の「返済シミュレーション」を利用してみてください。
据置期間内は毎月の返済を利息のみにできる
セーフティネット貸付は、各資金に対して、3年以内の据置期間を設けられます。据置期間を利用すれば、期間内は毎月の返済が利息の支払い分のみとなり、経営状態が好転するまで毎月の返済負担を軽減できます。
ただし、据置期間を利用する場合は下記の点に注意しておきましょう。
- 据置期間は返済期間に含まれる
- 据置期間を利用すると支払い利息額が増える
据置期間は返済期間に含まれます。たとえば返済期間を15年・据置期間を3年とする場合、据置期間をのぞいた残りの12年間で借りた資金をすべて返済しなくてはなりません。
12年間で借りた資金をすべて返済するとなると、毎月の返済負担が大きくなる場合があるので注意しましょう。
また、据置期間を利用すると、最終的に支払う利息額が増えることになります。そのため、「毎月の返済負担を軽減できる一方で、最終的に支払う利息額が増える」ことを理解したうえで、据置期間の利用を検討するようにしましょう。
返済シミュレーションをすれば毎月の返済額が把握できる
返済シミュレーションを試しておくと、毎月の返済額の目安が把握できます。借入前であっても、希望する「借入額」「返済期間」「金利」などがわかれば、毎月の返済額や最終的に支払う合計の金額が算出されます。
今回は、日本政策金融公庫の「返済シミュレーション」を利用して、返済シミュレーションを行ないました。適用する金利は年2.45%を適用することとします。
借入額 | 返済期間5年 | 返済期間10年 |
---|---|---|
500万円 | 88,522円 | 46813円 |
1,000万円 | 177,045円 | 93,626円 |
2,000万円 | 354,090円 | 187,253円 |
※当シミュレーションでは総返済額を返済期間(月単位)で割った数値を毎月の返済額の目安として算出しています。
※実際の金額とは異なる場合があるため目安として参考にしてください。
毎月の返済額は、借入額や返済期間によって異なります。
注意したいのは、返済期間を長く設定した分だけ支払う利息が多くなることです。500万円を年2.45%の金利で借入した場合、5年で返済した場合の利息は約26万円ですが、10年で返済した場合の利息は約61万円となり、2倍以上の利息がかかることがわかります。
そのため、毎月の返済額や支払う利息額のバランスを考えて返済期間を決めるようにしましょう。
なお、返済期間など返済に関する条件は、返済の途中でも見直すことが可能です。たとえば「返済負担を軽くするために返済期間を長く設定していたが、経営状況がよくなったのではやめに完済できそう」などの場合は、取引のある支店に相談できることを覚えておきましょう。